消費税の「インボイス制度」というものが、令和5年10月1日よりスタートします。
それに先立ち、令和3年10月1日から「適格請求書(インボイス)」を発行する「適格請求書発行事業者」の登録受付が始まりました。
消費税の課税事業者は「適格請求書発行事業者」になることについて、そのまま登録するだけなので問題ないのですが、免税事業者については、免税事業者のままだと「適格請求書(インボイス)」が発行できません。

これはどのように対応していくか、取引上不利となるケースもありそうで、実に悩ましいところです。

また仕入や経費を支払う側からしても、取引業者が「適格請求書発行事業者」でない場合に消費税の納税額が増えてしまうという問題が生じるため対応が必要になってきます。

このように大きく分けて2つの面から対応策が必要となる消費税のインボイス制度。
問題となりそうな点を中心に詳しく検討していきたいと思います。

インボイス制度とは?

インボイス制度とは実務的なわかりやすい表現で説明すると、

事業者が納付する消費税を計算する際に、税務署の登録を受けた「適格請求書発行事業者」から発行された「適格請求書(インボイス)」のみが原則として仕入税額控除の対象となる制度

です。

実例でくわしく説明してみたいと思います。

納付する消費税額の計算方法

事業者の消費税納税額の計算は、基本的に以下のように計算します。

売上 1,100円(うち消費税100円)
仕入    550円(うち消費税50円)
100円-50円 = 50円

この仕入にかかる消費税の50円について「適格請求書(インボイス)」があれば問題ありません。しかし、「適格請求書(インボイス)」が無い場合、この50円は支払っていても差し引くことが出来ず、消費税の納税額は預かった金額の100円となってしまいます。

大変なことですね。。

こうなると仕入は「適格請求書(インボイス)」を発行できる「適格請求書発行事業者」からするのがベターとなってしまいます。

適格請求書(インボイス)とは?

それではその「適格請求書(インボイス)」とはどのようなものなのでしょうか?

「適格請求書(インボイス)」とは「適格請求書発行事業者」として税務署から通知を受けた登録番号、適用税率、税率ごとに区分した消費税額など一定の事項が記載された請求書等をいいます。

「適格請求書(インボイス)」を発行するには、「適格請求書発行事業者」になるための事前登録が必要になります。

「適格請求書発行事業者」の登録

令和3年10月1日より登録申請がスタートしました。
令和5年10月1日の制度開始から「適格請求書(インボイス)」を発行するには、令和5年3月31日までの申請が必要になります。

消費税を納付していない免税事業者は、インボイス制度が始まった後も免税事業者でいる場合は「適格請求書発行事業者」になれません。
つまり「適格請求書(インボイス)」を発行することができないこととなります。

ここが様々な問題を生じさせる点となります。

免税事業者のインボイス制度対応策

免税事業者は「適格請求書(インボイス)」を発行できないことから、免税事業者への支払は仕入税額控除が出来ません。その結果、仕入税額控除が出来ない免税事業者は、取引から除外されてしまう可能性や、消費税額分の値引きを要求されるなどの可能性がでてきてしまいます。免税事業者にとってはとても厳しい制度となります。

では免税事業者はどのように対応していくべきでしょうか?
具体的な対応策は2つです。

対応策①:課税事業者となる

一つ目は課税事業者になってしまうことです。
課税事業者になれば、「適格請求書(インボイス)」を発行することが出来るようになります。

もちろん今まで免除されていた消費税の納税義務が生じてしまいます。

しかし「適格請求書(インボイス)」を発行できないために、業者の選定から漏れてしまう場合や取引が大幅に制限されると予測される場合は、課税事業者を選択するという選択肢も必要になると思われます。

課税事業者となるには

基本的に課税事業者になるには、課税期間の課税売上高が1,000万円以上であることが条件となります。ただ、そうでなくても自ら選択して課税事業者となることも可能です。
平常時は税務署に「課税事業者選択届出書」を事業年度が始まる前までに提出すれば、課税事業者となることができます。
今回は、令和5年3月31日までに「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出することで、課税事業者となると同時に「適格請求書発行事業者」となることができます。
この場合、令和5年9月30日までは免税事業者となり、令和5年10月1日から課税事業者として消費税を計算して納付することとなります。

対応策②:免税事業者のままで勝負する

こちらは堂々と「適格請求書(インボイス)」は発行できないまま、ほかの業者と勝負するということになります。

「消費税は引けませんが、いい仕事はしますよ」

というメッセージを前面に出して、それでも仕事の依頼が来るようであれば問題ないという考え方です。

また、消費税分を値引きするという考え方もあります。

しかし、そうすると仕入や経費の支払う消費税が負担となるため、消費税全部値引きするくらいであれば、課税事業者になった方が良いと思います。

支払う側の具体的対応策

「適格請求書発行事業者」でない取引業者(免税事業者や、課税事業者でも登録していない取引先)から仕入れを続けると、納税する消費税額が増えることになってしまいます。
「適格請求書(インボイス)」を発行できない業者と取引がある場合は、どのように対応するべきでしょうか?
その対応策を考えていきたいと思います。

「適格請求書発行事業者」の確認

まず取引業者が「適格請求書発行事業者」であるかの確認をする必要があります。

「適格請求書発行事業者」以外からの課税仕入れには、令和11年9月30日まで経過措置があり、部分的に仕入税額控除が可能ではありますが、それ以降は全額仕入税額控除不可となってしまいます。

今後は、事前に取引業者が「適格請求書発行事業者」であるかを確認して取引をしていく必要があります。

「適格請求書発行事業者」は、国税庁のウエブサイトで公表されており、誰でも閲覧・確認することができます。
令和3年11月1日から閲覧可能となっております。
国税庁適格請求書発行事業者公表サイト

取引業者が「適格請求書発行事業者」に該当しない場合

取引業者が「適格請求書発行事業者」でない場合は、その取引の内容や関係性により対応は分かれることになります。

消費税分負担しても付き合うべき大切な業者なのか
他に代えが効く業者なのか

このあたりの判断が重要となりそうです。

その他「インボイス制度」開始前に確認しておくべきこと

取引先との確認

取引先から「適格請求書(インボイス)」の対応について問い合わせがあることが想定されます。

社内でインボイス制度を周知させ、問い合わせ時の対応も確認しておくとよいでしょう。

また、これまで請求書を発行していなかった取引先について、「適格請求書(インボイス)」の発行をどのように行うかなどの事前の確認が必要になってきます。

社内での確認

仕入を、これまでの「10%」、「軽減税率8%」の他に、「適格請求書発行事業者」ではない業者からの仕入に分ける必要があります。
また、自社の販売管理・請求書発行システムの「適格請求書(インボイス)」対応を確認し、準備しておきましょう。

「適格請求書(インボイス)」に記載漏れや誤りがあった場合

発行した「適格請求書(インボイス)」に記載漏れや誤りがあった場合、修正した「適格請求書(インボイス)」を発行しなければなりません。

反対に、記載漏れや誤りがある「適格請求書(インボイス)」を受け取った場合には、正しい「適格請求書(インボイス)」の発行を依頼する必要があります。

「適格請求書(インボイス)」の再発行や修正依頼等への対応方法も事前に確認しておきましょう。

インボイス制度・まとめ

「インボイス制度」は、令和5年10月1日からスタートします。

「適格請求書(インボイス)」を発行できない免税事業者は、課税事業者になるか検討が必要となります。

また、取引業者が「適格請求書(インボイス)」を発行できる「適格請求書発行事業者」であるか事前に確認しておきましょう。

その他、例外規定などもありますので、気になる点や対応方法などは随時我々までご相談いただければと思います。